広島アクターズラボ『新平和』福岡公演によせて

2019年6月、柳沼昭徳が講師をつとめる広島アクターズラボ、3年間の集大成といえる作品『新平和』が広島にて上演されました。8月9日には、長崎原爆投下のこの日、福岡県サザンクス筑後にて平和事業として再上演されます。福岡公演に際して、編集者・ライターの大堀久美子さんより作品についてご寄稿いただきました。

■広島アクターズラボ 五色劇場『新平和』

作・演出・構成:柳沼昭徳

2019年8月9日(金)13:30/19:00 @サザンクス筑後 小ホール

https://www.goshikigekijo.com/

土地と人、歴史と出会う時間

京都の劇団・烏丸ストロークロックとの出会いは2010年。劇団代表で劇作・演出も手掛ける柳沼昭徳氏は当時、『国道、業火、背高泡立草』の連作を行っていた。短編数本を立ち上げ、改訂や上演を重ね、一つの長編へと結実させていく。もとは、演劇活動と並行していた別の仕事との兼ね合いから始めたこの手法は、柳沼氏のクリエイションといたく相性が良かったようで、手を加えるごとに厚みを増す作品との「再会」が、他にない観劇の醍醐味として刻まれた。

他にも、拠点以外の公立・民間ホールや制作体と協働し、その地域に深く根差す歴史、生活など人間の営みをリサーチし、そこから立ち上げる市民参加作品などにも力を発揮し、各地で成果を上げている。

8月9日(金)にサザンクス筑後で上演される『新平和』は、広島で舞台関連のプロデュースや制作を行っている舞台芸術制作室 無色透明の企画により、「広島の演劇とそこに携わる人のブラッシュアップ」を目的にしたアクターズラボから生まれた作品だ。2016年6月に始動し、柳沼氏のもとで俳優・つくり手としてのトレーニングを積んだメンバーが、作品発表に際し結成した劇団・五色劇場が上演に当たり、これまで二度の試演を重ねて来た。

2020年には原爆投下75年を迎える広島で、「演劇の手法を使ってヒロシマを繼承できないだろうか」という思索のもと創られた本作は、俳優各人が被爆体験者を探し、訪ね、相互の関係をつくるところから始め、交流を重ねる中で語られた言葉を劇の言葉として新たに紡ぎ、舞台としたもの。

今も癒えることのない戦争と原爆が残した大きな傷。それを抱えながら生きる、生きざるを得ない人々と、その近くでやはり、歴史を直視せざるを得ない後代の人々。記憶を越えて舞台上に甦る「痛み」に、6月末、広島で観劇した際には呼吸が浅くなるほど上演を注視する他なかった。

長崎に原爆が落とされた日に、広島の劇集団がこの題材で公演するということに、何かしらの巡り合わせを感じずにはいられない。

皆様それぞれにご多忙とは拝察のうえ、それでも是非、この機会に九州外での心ある演劇的取り組みと、新たな才能と出会っていただけたらと切に願っている。

                        編集者・ライター:大堀久美子


舞台写真:2019年6月広島アクターズラボ 五色劇場『新平和』より